1月に読んだ本まとめ:文芸とマークアップ

1月は年末年始のお休みがあったこともあり、のんびり本を読むことができました。1月に読んだ本より2冊の感想をまとめます。

目次

市川 沙央「ハンチバック」

第169回芥川賞受賞の市川 沙央さんの「ハンチバック」。
Web制作業の方の読了後の感想を読んでおっ!と思って読んでみました。中編くらいの長さだったので買ったその日のうちに読んでしまいました。

物語は著者と同じ重度の身体障害者の主人公の視点で語られるお話です。
htmlのタグではじまる小説なのですが、htmlだけではなくWordPressやらTwitterやらiPhoneやら…とわたしたちWeb制作業の人間からするととても馴染みの深いワードが文中に次々出てくるのですが、作中に出てくるサービスを実際に利用したことがある人間にとってはとてもリアリティをもった感覚で読めるのではないでしょうか。

本作ではhtmlタグから始まっているといえど、そのタグは<html>じゃなくて<head>から始まっています。そして物語が終わるまで、閉じタグられることがないタグもあり、マークアップでご飯を食べている人間からするととてつもないもやもやを抱えたまま物語は終わります。
「ITっぽさ」「デジタル社会っぽさ」みたいな印象をつけるための装飾として、創作の世界の中でhtmlのまがい物みたいな表現が成されることはままありますが、果たして本作におけるこの気持ち悪い誤ったhtmlはそういったたぐいのものなのでしょうか。

作中では繰り返し自身の障害は狂った設計図によるものだと述べられています。
このはちゃめちゃでモヤモヤするマークアップは「狂った設計図」を表しているということだとすれば、「狂った設計図」の感覚を伝える意味合いではとても適切な気持ち悪さが表現されているなぁ…と感じました。

伊藤 計劃「ハーモニー」

前々から気になっていつつも手を出していなかった伊藤 計劃さんの「ハーモニー」。
ハンチバック読了後にヨッシャ流れで読むか~と読みだしたのですが、そこそこの長さがあるのにおもしろすぎて一気に読み切ってしまいました…。もっと早く読めばよかったね…。

物語は未来を舞台にしたSFミステリー。世界的な混乱の後、人がありにも死にすぎてしまった結果、反発するように生まれた福祉厚生社会を舞台に、命を大事にしすぎる社会に異を唱えた3人の少女を中心に物語は進みます。

ハーモニーの特徴として、htmlのような記述方法で書かれるetml(Emotion-in-Text Markup Language)で記述されています。etmlは文書内に感情情報を付随できる、ハーモニーの世界の中でのマークアップ言語。書き方がほとんどhtmlなので、Web制作業の皆さんであれば「読める…読めるぞ……!」となるのではないでしょうか。
未読のみなさんはぜひネタバレを踏まずに最後まで読み切ってほしいです。


ハーモニーの最終章ではこのetmlがなんのために存在するか、ということがわかるかたちで物語は終わります。
ハンチバックを読んだ時にも感じたことですが、「html書ける人間」というのはやはり少数派であり、html書けることによって物語の解像度が上がる作品、というのが世に出てくるとはhtmlをぽちぽちした頃には思ってもみませんでした(ましてや、そういった作品が芥川賞か~というところも含めてハンチバックにはびっくりしました)

新たな共感の感覚を与える2作でした。

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